「美神の恋」山口路子


酔った頭でジャニス・ジョップリンとか聴いてると酔いが加速するな。あの時代のサイケデリックは混乱を増すために作られたとしか思えん。ぐんぐん加速する血中アルコール濃度、そしてそれをほうっておきながら、無意識下では、もっとだもっと!と酩酊まっしぐらだ。

サガンの映画を見た後に、もうちょっと彼女について知識を得たいと思って山口路子の文庫を購入した。その後彼女の名前は忘れていたのだけど、最近少しづつ読み進めているアナイス・ニンの日記にかなり心を持っていかれていて、40男が気持ち悪いかもしれないけれど、そのアナイスの気持ちにかなり感化されていて、どうしようもなく彼女が愛おしい。それで、誰か男子でアナイスの日記に夢中になっている人はいまいかと検索していろんなブログや書評を読んでいたら、引っかかったのが山口路子のブログだった。

ああ、サガンの人ね、と思って読んでみると、アナイス・ニンへの極度の偏愛に満ちた記事が多数出てきて、その切実さがバシバシ伝わってきて、一気に、そして勝手に同士の握手をしてしまったのだ。そして図書館にて彼女の著作を借りてきては読んでいる。

「あなたが傑作をものにしたら、そのとき結婚しましょう」と言ったのは、画家ココシュカと恋に落ちたアルマだ。アルマはクリムトと最初の、ファーストキスをした後、様々な男遍歴を重ねる。作曲家ツェムリンスキーとの恋をを経て、23歳であのグスタフ・マーラーと結婚するのだ。マーラーは哀れなまでにアルマに執着、「彼女は私を愛している!この言葉に私の人生すべてが含まれている。この言葉が言えなくなったとき、私は死ぬだろう」とまで高らかに宣言している。魔性の女とはまさに彼女のことにほかならない。そしてアルマとマーラーの結婚は8年で終止符を迎える。アルマが建築家のグロピウスと恋に落ちたからだ。そしていろいろないざこざを得て、アルマは32歳でココシュカと出会うのだ。そしてアルマに夢中になった25歳の年下男ココシュカはアルマにさいさん結婚をせまる。そこでアルマが言った一言が冒頭の台詞である。恐ろしい。そして才能の承認を受けたココシュカはアルマの言葉に刺激され描きまくり名作をものにしていく。そしてアルマはココシュカの子を妊娠するが中絶。絶望のココシュカは志願兵となり二人には別離がやってくる。しかし話はここで終わらない。アルマはココシュカと別れたあとも恋の遍歴を重ねていく。そしてアルマが70歳の誕生日に一通の電報が届く。

「愛しいアルマ、僕たちは「風の花嫁」のなかで永遠に結ばれているのです」

忘れがたき人。この形容ほど自己本位な女を当然とさせるものはない。そしてたいていの女は自己本位なのだ。そう山口は書く。このエピソードに魅了されていることがありありとうかがえる一文だ。そして続けてこう書いている。

一度は愛したひとから、ずっと後になって「貴方は忘れがたき女だ」と書かれた手紙をもらったりしたら、私なら甘美な満足感にひたる。若き日の思い出を反芻し「彼と私は実生活は別だけれど、やはり精神的には結ばれている」と胸を熱くする。

その後なぜアルマはこれほど男を虜にしたのか、という分析が続く。これはエピソードのひとつだけど、それ以外にも画家とミューズのエピソードがたくさんおさめられている。モディアリー二、ピカソレンブラントクリムト、シーレ、モネ、マグリット、ルドン、ロートレックルノワール・・・etc

それぞれの画家に対しての基本的な情報、その生涯などを知りたい人には不向きだと思うが、恋愛にからんだエピソードを知りたい人には格好の一冊だ。芸術家の創作のエネルギー、それは恋愛によるところが大きい、ということがまぎれもない事実として露呈する本である。しかも作者の山口が自分を重ねて思い入れたっぷりに語るのだから、これはもうお腹いっぱいの一冊だ。しかし愛とは何なのか、その疑問が募るばかりで、あこがれと面倒くささとが入り交じった複雑な気持ちになる。そして、でもしかし、この世で誰もが必要な恋愛、しかも熱烈な思いをこうまで列挙されると、人生が狂ってしまうほど恋焦がれたいという思いが芽生えてくるのも確かなのだ。


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